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【新春特別インタビュー】 インディーズその可能性の中心 <後編>
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インディーズその可能性の中心
<後編>



③サンプルー個々の問題


 
ー再開発で一つの店のみならず、一つの町が消滅することもあります。一度なくしたら、二度とその風情は戻らない。うまいこと残せないか、守れないかという議論が活発化する一方で、そんなのはノスタルジーに過ぎないという痛烈な批判もあります。

「それ、私も取材の方に聞かれたことがあります。どう思いますか?と。いや、どうもこうも、うちはノスタルジーで続けている訳じゃないし」

ーそりゃそうです。元々、下北沢問題に絡んだ発言のようですが。

「その一言で、立ち退き反対という図式は色褪せてしまったとか」

ー困っちゃいますよね。そんなこといわれても。

「いや、その方は企画をどう通すかで悩まれていて、その時の企画は通らなかったものの、別の形で大変お世話になって感謝しているんです。私自身、勉強になった。例えば、どこか知らない土地へ行って、たまたまその風景が気に入って、これは絶対に守らなくてはといっても、旅行者の勝手な感想でしょう?守るというのが、そもそも当事者の発想でない気がする。それよりもベルク固有の問題、契約の問題とか駅のあり方に焦点を絞るべきだったんですね」

ー反対運動がわりと盛んなところでも、地元商店の声があまり浮かび上がってこない。そういう状況でも、お店の人は声をあげるのがためらわれるのでしょうか。

「まあ複雑でしょうね。私自身、ベルクが立ち退きの店で有名になるのはベルクに対して申し訳ない気がします。お店としては、そういう運動でなく、商売で盛り上がりたいですから。でも追い出されたら商売そのものができなくなる。というジレンマもあって」

ー再開発から町や店を守ろうというのがノスタルジーかどうかという議論は、いわば外野席どうしの言い合いであって、当事者であるはずのお店はどこかしら蚊帳の外なのかも知れませんね。

「でも、(「ノスタルジーに過ぎない」という発言がおさめられている)『東京から考える』という本を読みましたよ。面白かった」

ーどちらかというと、再開発寄りの…。

「都市を、人間工学的に正しくデザインしようというね」

ー正しいなんて、決めつけじゃない?という気もしないでもないですが。

「というか、デザインって、誰がどう使うかですよね。マイシティ時代、館内の内装デザインのコンセプトが『ニューヨーク』と決まると、ニューヨーク風に商品は奥に引っ込めて下さい、目立たないようにして下さいとビルからお達しがあったんです(笑)。こっちは商売しているのに」

ーそれは間違ったニューヨーク観じゃないですか?

「デザイナーのイメージなんでしょうが、それがそのままビル全体の方針になる。デザインとハサミは使いようなのに、使われてどうするとは思いましたね」

ー(「ノスタルジーに過ぎない」と発言した)東浩紀さんについては、あまり触れるなとまわりから止められていまして…

「あ、そうなの?」

ー話がややこしくなりそうで。

「私が感じたのは、単純に視点の違いですけどね」

ー店長と東さんの?

「ええ。郊外と都心、車と歩き、家族連れと単独行動、文筆業と客商売というように見事に対照的です」

ー確かに、再開発も、東さんのように車の視点から見ると便利になるし、店長のように歩く視点から見ると町に味気がなくなる。どっちもそれなりに正しい。

「そうそう。だからかえって、東さんの視点が私には新鮮でした。例えば、ベルクが東さん的視点から突かれて痛いところってありますよ。家族連れでは入りにくいところとか」

ー意外に、ベルクで家族連れ見かけますけどね。

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写真/迫川尚子


「ええ。ありがたいことに。一人でいらっしゃっていた方が、ある日突然恋人を連れてみえ、ある日突然二人の間に子供の顔があったりして(笑)」

ー人の一生ですね。

「ベビーカーが入れるよう椅子をどかすとか、こちらも極力対応させていただいていますが、立ち飲みで隣同士がくっつき合ってというスタイルは、家族連れにとって決してやさしくはない」


ーそういう物理的な制約はしかたないですよ。大事なのは店の姿勢と客の寛容(笑)。それである程度カバーできるんじゃないか。

「ただ、東さんのポイントは『店の姿勢』より『店の造り』にありますからね。というか、店を含めた環境づくりか。例えば新宿駅を人間工学的に見て、ベルクの面積を10倍に広げるべきだと東さんならJRさんにいってくれるかも知れない(笑)。ベルクへのクレームで最も多いのは、実はタバコの煙でなく、狭い!なのです」

ーベルクは大衆店ですが、どちらかといえば大人向け、一人向けの店です。それは物理的な制約による、と?

「この狭さがベルク独特の雰囲気を醸し出しているともいえるのですが、もし10倍の広さにできるなら、私はしたい。それで雰囲気が壊れるといわれたら、そんなのはノスタルジーに過ぎないというでしょう(笑)」

ーこの裏切り者!(笑)でもまあ、店長がそのように店の立場から東理論(人間工学)を応用するのは面白いとは思うのです。ただ、立ち退きを迫られながら声をあげることができないお店への配慮が東さんにもうちょっとあってもよかったのでは?あ、いっちゃった(笑)。

「どうなんでしょうね。ノスタルジーという言葉が、一人歩きしているだけの気もしますけど」

ーノスタルジーなんかじゃない!これが現実だ!と店長がここらでお店を代表して、異を唱えてみるとか。

「それは無理でしょう。このベルクの現状が、いつかどこかでどなたかの参考になることはあるかも知れませんが。例えば、突然、密室に呼び出され、退職勧告などされても、絶対にその場で応じず、冷静に考え、人に相談すべきだとか。いじけたり焦れたり感情的になったら、負けです(笑)。まあ損するだけですね。とにかく私たちの体験が、一つのサンプルになればとは思うのです。ただ、あくまでもベルクはベルクです。シモキタはシモキタ。東さんは東さん。ルミネさんはルミネさん」

ーまあそうですよね。助け合いの精神は失わずにいたいですが、みんな結局、自分に関することしか責任とれないし、それぞれ固有の問題がある。


④聖域ーベルクはよそ者?


「ただ、ビルのオーナーであるルミネさんと、テナントであるベルクとは、持ちつ持たれつの関係にあるはずなんですけどね。なぜか相いれない。ベルクがファッショナブルじゃないから?ファッショナブルって、一体?と自問自答を繰り返すばかりです」

ールミネさんに聞いてみては?

「前ルミネエスト店長によれば、なぜ食品売り場をなくしたのか?なぜ本屋をなくしたのか?という問い合わせがお客様からも結構あるらしい。それに対し、ルミネさんの答えは既に決まっているそうです。『それがルミネです』と」
 
ーオールマイティな答えですね。なぜベルクを追い出そうとするのか。

「『それがルミネです』この絶対的な自己正当化ぶり。お客様にまで…と思うとあっぱれですが、ルミネさんにとってはお客様ではないのかも。スタバを1階から2階に移動させた理由も、(1階にあると)よそ者が入ってきてしまうからというご説明でした。最初、意味がよくわからなかった。でも考えてみれば、ルミネさんのターゲットは20代前半のお洋服を買う女性客です。それ以外の人はよそ者と呼ばれている。だとしたら、ベルクなんてよそ者だらけです(笑)」

ー新宿駅全体がそうじゃないですか!

「駅はしょうがないとおっしゃってました。いろんな人がいても」

ーしょうがない…?

「ルミネさんは、社長が元鉄道員で、国鉄民営化にも大きく貢献された方とうかがっています。だからなおさら、駅直結ならではの駅ビルを期待してしまうのですが、それは私の勝手な思いであって…鉄道のDNAを捨てた、という社長の名ゼリフもありまして」

ーもったいない。

「ルミネさんにしてみれば、私たちの館は(幹部の方はビル名の『ルミネ』でなく、『私たちの館』といういい方をよくされます)駅ビルというより、駅とは一線をひいた聖域、聖なる館なのかも知れません」

ーえーっと。要するに、ファッションビルってことですよね?スタバのあったところには何が来たのですか?

「ルミネさんと親密なビームスさんですね」

ーベルクのある場所も、ビームスさんにしたいのかな?

「それはわかりません。ただ、JR系列の花屋さんを入れたいという理由で、昔からあった花屋さんを退店させたこともあるそうです」

ーなぜベルクはこの場所で続けようとするのか。それがベルクです。

「…とはいいきれない、立場的な弱さがあるんですね。ベルクには。だから数(客数と売上)では実証済みとはいえ、改めてお客様にご意見伺ったのです。よろしいでしょうか?この場所で続けても、と」

ーしかし、ルミネさんにとっては、1万人を越える署名もよそ者の署名ということになるのでしょうか。だとしたら、随分都合のいい理屈だし、それがどこまで通用するのか。いずれにしても、立場の弱い者が声をあげる必要って、難しいのを承知であえていえば、ありますね。

「一つ確かなのは、今、立場の弱い者があまりにもバラバラで、あまりにも弱すぎるということです」

ー団結とか連帯という空気が薄れてますもんね。

「むしろ、弱い者がさらに弱い者をいじめる構造になっている。足の引っ張り合い」

ー店長も、いじめられる?

「いや…。ただ、お客様じゃないですが…ベルクのことも全く知らないのに…困っている人を見るとほっとけないタイプの方がいて(笑)、助言して下さるんですね、色々。あまり意固地になると、身のためにならないよ、とか」

ーうわっ、脅しですよ、それ。第一、意固地というより…。

「なんで?筋通らんじゃん?という素朴な疑問ですよね」

ーまあお騒がせしている以上、そういう外野席のご好意もうまくかわしながら(笑)、店長はベルクを守るしかないでしょう。

「そうですね。毎日フツーに続けるだけです」


⑤公共ーインディーズの可能



ー最後に。先日、出版関係者有志が運営する勉強会「でるべんの会」で、店長は、店に個性はいらないと主張していましたね。…考えなくていい、でしたっけ?それが東浩紀さんの、町に個性はいらないという発言とどこか重なってしまうのですが。

「通じるかも知れません。海では海のものを食べる。山では山のものを食べる。そうした地域性は大事ですけど」

ーベルクは、駅という、目的も行き先も異なる人たちの交差する場の特性を生かした店だ、と店
長はよくいいます。それは個性とはまたニュアンスが違うのでしょうか。

「個人店は『個性』と思われがちですが、商売する身からすれば、本場の味!とか、個性的なセレクト!とか、あくまでもキャッチフレーズに使う語句の一つなんです。それ以上に、この言葉にとらわれない方がいい」

ー東さんも、客の立場から、店に個性は求めないみたいなことをおっしゃっています。コンビニでいいじゃん、と。

「そういえばあるブログで、ベルクは女一人、店主に気に入られなくても当たり前に飲めるのがいい、と書いてありました。確かに、女性だろうが老人だろうが、人間関係や自分の属性を気にしなくていい気軽さや便利さはコンビニ的ですね。スタッフは私も含め、黒子に徹している、というか徹しざるをえないし」

ーひたすらテキパキ回転してますもんね。コンビニとの違いは、商品へのこだわり方かな。あとベルク本にも書いてありましたが、本部が外にないこと。といって、内輪的な雰囲気は微塵もない…。

「そうですね。スタッフは皆、黒子。お客様は皆、身元不明人(笑)」

ーでも駅もそうですが、ベルクのような不特定多数の人が集まる場所って、怖くないですか?

「何が?」

ー突然、危害を加えられたりとか…。

「身の危険を感じたことはこの18年間一度もないですね。気づかなかっただけ?(笑)でも人間って、お互い顔が見えないと妙に暴力的になりますが、ベルクのような狭い空間で肩を寄せ合りあいながら美味しいものを食べていると、自然と譲り合いの精神が生まれたりするんです(笑)」

ーベルクミラクルですね。

「それにベルクのような店を使うって、お客様の方も、気軽なわりに熟練が必要だったりする。まずは常連さんの見よう見まねで…」

ーお客様とお店が共に成長する。ベルクの場合、いつでも初回客が入ってきますし、殺伐ともなれ合いとも違う、独特の緊張感と親和的ムードが漂いますよね。

「いくらネットが発達しても、人はベルクのような場所に集まってくるのではないか」

ベルクは本当の意味でのパブだと思います。パブ風の店じゃなく、店のあり方がパブ。日本語に訳すと公共の場。店長が敬愛するという赤羽のまるます屋さんも、本質的にパブですね。

「そうですね。パブこそ個人店向きだと私は思います」

ーそれはどういうことですか?

「公共物ってガスにしろ電気にしろ、使用法は使用者が決めるでしょう。ベルクもそういうところがある。朝からモーニングもビールもおつまみも用意して、あとはお好きにどうぞという」

ーそれが個人店向きというのは?

「個人店?」

ーいや、店長がいったじゃないですか。パブは個人店向きって。

「古川琢也さんの『セブンイレブンの正体』という本を読んでいて思ったのですが、コンビニも個人店なんですね」

ーああ。お店自体は個人経営です。フランチャイズ契約を結んでいるだけで。といっても、実質的には本部に従属することになるし、切られる時はすぱっと切られますが。契約社員や定期契約に似ている。

「それは本を読んでいただくとして(笑)、うちのように本部がないというか、現場が本部というべき個人店は、フランチャイズと区別してインディーズと呼ぶべきなのでしょう」

ー確かにチェーン店やフランチャイズなんかだと、そのくらい融通つけてよ、目の前の私よりマニュアルが大事?といいたくなることがあります。ベルクのような個人店は、決定権を握る経営者が現場にいますもんね。様々な駅利用者に対して、臨機応変に応じられる。国内外の都市開発を追うジャーナリストの清野由美さんも、朝日新聞の書評欄でベルク本を取り上げ、「今、世界の大都市はビル街の足元に、低家賃で個人商店を導入する時代。個人商店はすなわち時代の最先端にある。効率至上で行きたいのなら、むしろ個人商店の価値にこそ気付くべきだ」と書いてらっしゃいます。

「例えば、ベルクでは職人の手作りだけでなく、ビールのような大量生産の食材も扱いますが、ちょっとした異変にスタッフは即座に反応します。毎日飲んでいるから(笑)。もちろん、どんな食材にも味のブレはあります。ただ、止める程じゃないけどブレの範囲を越える微妙な変化というのがあるんですね。それを見逃す訳にはいかない。何かの信号かも知れないし。仮にメーカーが原材料や工程は変わらないといっても、私たちは自分の味覚を信じます。メーカーだって自分の味覚で応じてほしい。ただ、個人でなく組織ですと、どうしても公式コメントみたいなものが用意されていて」

ー変化を認めない?

「いや、さすがにベルクの意見は重視してくれるようになりました。時には公式以外の情報を漏らしてくれることもあります。原材料も工程も変わらないが、実は工場が変わりました、とか(笑)」

ー決定的な変更じゃないですか!(笑)

「そうとわかれば、味がなじむまで多少時間がかかりますから、こちらもガス圧など微妙に調整して様子を見ようと前向きな姿勢になれます」

ー大手といっても、現場は個人(醸造責任者)が体はっているんですもんね。なかなか職人のように直で腹を割ってというお付き合いは難しいかも知れませんが、長年の信頼関係によってその壁も徐々に崩れていくのではないでしょうか。ルミネさんとの関係も、そうなるといいのですが。

「そうですね。例えば、お店でもフランチャイズやチェーンだったら、新しく商品を増やすと、売れない商品から削っていくでしょう?うちの場合、現場のスタッフは一つ一つの商品に開発から関わっているから、愛着があってどれも削れない(笑)」

ーなるほど。だからあんなにメニューが多いのか。さすがに効率悪くないですか?

「一日に一個しか売れない商品でも、それ目当のお客様がいらっしゃる…」

ースタッフの未練がたった一人のお客様を救う(笑)。ただ食材の場合、ロスの問題が。

「仕入れや仕込みを小まめに調整すれば、問題ありません」

ーなかなかそこまで普通出来ないのでは。長年の経験やカンがものをいうのでしょうが。

「店を愛していれば、さほど苦にならない(笑)」

ーそこに関しては、実際に苦労しているスタッフの皆さんの声も聞くことにして(笑)、チェーン店やフランチャイズでは考えられないようなことが、ベルクでは日々起きているのでしょう。

「個性はあまり意識しない方がいいといいましたが、ベルクは明らかに人格があります」

ーえ?視線を感じる?

「まさに。すねたり、機嫌がよかったり」

ー感情をもつ店(笑)。でもベルクはベルクとしかいいようのないところがありますね。

「それは作ろうとして作れるものではなく」

ーワインのように熟成された味わい…。ベルクはリーズナブルですが、そう考えると贅沢な店ですね。でも、それで商売が成り立つなら、誰も文句はいえない。文句をいっているのはルミネさんだけか(笑)。

「文句すらおっしゃらない。ただ、出ていけと」

ー呪文のように(笑)。それにしても「公共の場こそ個人店(インディーズ)」というのは、目から鱗でした。ずいぶん昔に国鉄は民営化されましたが、駅が駅であり駅ビルが駅ビルである限り、公共性は決して消えてなくなりません。幸運を祈ります。

「ありがとうございます」
by bergshinjuku | 2009-01-14 02:06
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