『日計り』と私
大松幾子先生は、全国に沢山のお弟子さんがいる朗読の大先生だ。私は先生になぜか可愛がられた。娘と一緒に買い物をするのが夢なの、と息子さんを紹介されたこともある。後を継いでほしいとのことだった。先生は、私がベルクで働いているのをご存知だった。でも、一生の仕事とは思われなかったのだろう。ベルクが忙しくなるにつれ、私はだんだん朗読から疎遠になった。ある日、先生から連絡がありお会いした。イヤリングをいただいた。先生は大病の後だった。もう一度、後継者にと説得された。嬉しかった。と同時に、ベルクがいかに大事か、どう説明すればわかっていただけるだろうともどかしくもあった。私の上司でもある、迫川尚子の写真集『日計り』が出た時、それを先生にお送りした。すぐお手紙をいただいた。この方はきっと優しくて厳しい方ね、アングルが的確で、その中に暖かなまなざしがあると先生の感想が書かれてあった。私がどういう環境にいるか、察していただけたのだ。文面からそれが伝わってきた。もしかしたら、私は優秀な弟子なのでなく、頼りなくてご自分で育てようと思われたのかも知れない。だから安心されたのかも知れない。数年後、先生はなくなられた。最後まで朗読の現場で活躍されたそうだ。『日計り』は、私にとっても特別な意味を持つ本なのだ。
今香子

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