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【店長ブログ】 批評家とは
批評家とは


『東浩紀にもの申す』という文章を先日(1月28日)、こちらに(衝動的に)のせたところ、東さんご本人からお返事をいただきました。

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ご意見、真摯に受け止めました。下北沢の件、ぼくの発言が「圧力」として機能していたというのは初耳で、戸惑っておりますが、結果としてご迷惑をおかけしていましたならばお詫びいたします。今後ともよろしくお願いいたします。
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いや、あんなタイトルにしてみたものの、実際に東さんにお読みいただけるとは思っていなかったので、正直ビックリしました。そして、その誠意ある対応に、感謝するやら恐縮するやら。さっそく、うちのスタッフに報告したところ、みんなの反応は、最初「東浩紀?だれ?」でした。

「ほら、店のカウンターに置いてある『早稲田文学』の表紙で、快活そうな娘さんと一緒にうつってる写真あったじゃん、撮影が篠山紀信さんで」と説明しても、みんなそれどころじゃない。でも「誰だか知らないけど、批判にちゃんと答えるなんて、エラい」とスタッフ間で、東さんの株は急上昇(と言うか、さっさと一件落着にしたかっただけ?)。「批判なんて、とんでもない。ちょっと喧嘩腰だったかも知れないけど、あれは私なりの東さんへの(勝手な)エール。だからご本人に何かしら響いたとしたら、やはり嬉しい。もしかしたら、批評家という言葉が東浩紀の何かに触れたのかも知れない。日本における批評家は小林秀雄以来、独特の位置にあって…」と調子にのって解説を始めると、みんなすでにゲンナリした顔で「そもそも、店長はその人にエールを送っているヒマなんてあるわけ?」「インテリの考えることはようわからん!」とブーイングの嵐。私も意地になって「いや、インテリにバカにされる存在なんだよ、批評家って!」と訳のわからんフォローをしたりして(フォロー?)。そりゃ、批評家にとっちゃ本を読むのも仕事のうち、私たちに比べたら知識もはるかに豊富でしょうが、いわば保証書付きの知識をウリにするのがインテリとすれば、それにとらわれずフットワークのよさ(トライ・アンド・エラー)で勝負するのが批評家なんだ、とわかったようなわからないような解説をまた続け…。




でも、「批評」は元々「criticism」の翻訳で、語源が「crisis(危機)」です。やっぱ、どこかあぶなっかしいのでしょう。いわゆる評論とも違う。確固たる評価基準があって論じるのが評論とすれば、むしろ、批評はあらゆる評価基準を疑うところから始まる。いつ割れて落ちるかわからない、薄氷をふむが如し。まあ「勝手にやってれば?」なんですが(今回も、東さんなんてほっときゃいいのに、という助言を周囲から多数いただきました)、日本ではなぜか小林秀雄以来、江藤淳、吉本隆明、柄谷行人といった有名批評家が次々に現れ、バカにならない影響力を持ってきたのです。結果的にであれ、人々の伝統的な考え方や固定概念を解きほぐしたり、壊したりした。私の父(ベルク創設者)も愛読した元祖小林秀雄なんて、国民的ヒーローでしたもん。今じゃ信じられない話ですが。批評家はある時期まで、いい意味でも悪い意味でも刺激的な存在だった(毒にも薬にもなった)。言わば、知のトレンドだったのです。そういう意味で、東さんも批評家の末裔なんじゃないか、と思います。じゃあ具体的に何をどう論じるのが批評か、と言うと(一応、文学が基本にあるようですが)、一人一人の批評家が、いや、一つ一つの仕事がその切り口からして独創的と言おうか突発的と言おうか、内容も文化・芸術から社会・政治にいたるまで多岐にわたっていて、一貫性や共通性には欠けるようです。まあ影響力ということを抜きにすれば、批評家は言論における月影兵庫、剣の腕前(実力主義)で生きる素浪人。だから、一介の飲食店の店主に過ぎない男のふりかざした剣も、さっと受ける。カッチョエエ。(むしろ権威になったら、批評家としてはおしまいなのでしょう。)

東さんからご返答があったこと、シモキタのテナント関係者にもさっそくお知らせしました。みなさんの想像以上の驚きように、あの発言へのわだかまりが垣間見られました。中には、東さんにもっと早く直に確認すべきだったという声もありました。確かに、知らず知らずのうちに何かを勝手に標的に仕立て勝手に盛り上がってしまうことってありますね。酒の席での、いない上司の悪口大会みたいに。でもそれは所詮、ガス抜きの類であって、何の広がりも期待出来ないし、可能性もないように思えます。東さんの論じてられるのは、行政寄りに見える都市
論にしても、再開発をできれば止めてほしい私のような立場の人間でも目からウロコ的なところがあります。やはり、気になる批評家なのです。ただのガス抜きに使うのはもったいない。そんな色々な思いがブレンドされ、衝動的にあの文章を書いてしまったようです。お騒がせ致しました。

ベルク店長 井野朋也


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by bergshinjuku | 2010-02-18 01:51 | 店長ブログ
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