定期借家制度の落とし穴
〜店長インタビュー〜 店長、定期借家制度って、ズバリ、何がどう問題なの? 「難しいですね。借家法は」 ビミョーだよね。借りる側も貸す側も、それぞれリスクがあって。 「ケース・バイ・ケースですけどね」 借りる側のリスクを最小限に抑えるのが、今までの普通借家法。貸す側のリスクを最小限に抑えるのが、新しい定期借家法。という解釈でとりあえずいい? 「そういうことですね」 ぶっちゃけ、従来の制度だと家主は借家人を簡単に追い出すことができない。新しい制度だと簡単に追い出せる。ずいぶん、極端から極端だな。 「まあそういうことです」 ただし、世の中が丸ごと新制度に移行したわけではない。 「そうですね。契約というのは個々に結ばれるものです。その際、法的裏付けとしてどちらを利用するか、選択できるようになったということです」 選択って、誰がするの。家主?借家人? 「形式的には、両者の同意という形をとりますが」 なにその事務的対応(笑)。まあいいか。最初から期限が(自動更新なしで)1年とか2年と決まっているのが定期契約だよね。合意の上なら、追い出すと言うのも変だな。お互い割り切ってるわけだし。 「割り切った関係」 やらしいよ。 「同意とは言え、最初に決めるのは家主でしょう。選ぶのは借家人です。が、実質的には立場の強い方とも言えます」 ああ、そうか。借り手の多い所では家主の立場が強いから、家主は家主に有利な定期契約(新制度)に決める。借り手の少ない所では家主の立場が弱いから、家主は借り手に有利な普通契約(従来の制度)に決めざるを得ない。 「でも、おかしくないですか?家主の立場が強い所では、家主の立場はさらに強化される。家主の立場が弱い所では、家主の立場は弱いまま」 新宿駅ビルの家主は、けっこう立場強い? 「チョー強いです(笑)。契約書を見ればおわかりいただけると思いますが、テナントはほぼ全面的に家主の都合に従う内容になっています。それだけ家主が強気でいられる場所なんです」 しょうがないよね。あれだけの一等地なんだから。テナントも、一応納得した上で契約結ぶわけだし。 「まあそういうことです。(契約書の)ベースはうちのじいさん(初代駅ビル社長)が作ったんですけど(笑)」 祖父が孫を苦しめてる(笑)。でも店長も、おじいさんの立場ならそうするんじゃ? 「そうですね(笑)」 ただややこしいのは、ルミネが新しい借家制度にのっとって、契約自体を変えようとした所だね。 「そうなんです。普通契約を結んでいるのに、定期契約に変えると」 話をいったん元に戻すと、今は借家制度に従来型と新型と2種類あって、どっちを利用してもいい。それを決めるのは家主だと。選ぶのは借家人だと。しかし、一度結ばれた契約の法的裏付け(制度)がチェンジする。というのが、どうもよくわかんない。そんなこと、ありなの? 「おかしいですよね」 店長の言葉では、定期借家制度が悪用されている、だっけ? 「新制度が追い出しの道具に使われているのだとすれば、それは悪用ではないかと」 制度が悪いのでなく、使用法が間違っている(笑)。 「従来の制度では借家人の権利が守られ過ぎている、というご意見もわからないではないんです。元々、戦地に赴いた兵士が帰る家を失わないようにという配慮から生まれた戦時立法ですから」 その制度を作ったのも、店長のおじいさん? 「祖父は戦時中の政治家(官僚)でしたが、作ったかどうかはわかりません。でもその一味が」 一味(笑)。でも戦争の是非はおくとして、昔の政治家はまだ心があった。その戦時立法も、平和な時代には合わなくなったということか。 「どうなんでしょう。ただ、権利が守られ過ぎると言っても、借家人もそれなりに負担を背負うわけです」 お金か。敷金とか礼金。テナントの場合、権利金というのもある。 「そうですね」 いくらくらい?(笑) 「うちは7000万円払いました。大借金して。お蔭様で20年近くかかりましたが、全額返済済みです」 おめでとう(笑)。そのお陰で、よっぽどの事情がない限り、営業が続けられるわけだ。いわゆる営業権ってやつ。 「問題は、サイン一つでその営業権が消えるということです。そこが落とし穴です」 それが従来型から新型に変わるということか。 「そうです。契約を途中で切り替えるということです。そこに注意してほしい。いわゆる再契約(リセット)です。単なる調整、変更ではなく」 ただ、それも同意の上だよね。 「そうです」 嫌ならサインしなきゃいい。 「そうですね」 うっかりしちゃっても、即切れるわけじゃない。 「ただ、営業権を失いますから、家主に出ていけと言われたら出ていかなくちゃなりません」 え。理由もなく? 「はい」 補償とかは。 「立ち退き料ですか?」 そうそう、それ。 「立ち退き料というのは営業権の穴埋めですから、営業権がなければ穴埋めの必要もありませんから、支払われずにすんじゃうんです」 え。待って。待って。ベルクだと立ち退き料はいくらくらいになる?(笑) 「わかりませんが、億はくだらないという人もいます」 それがサイン一つで、チャラ? 「定期契約と普通契約では、根本的に条件が違います。それをサイン一つで切り替えるのがそもそもおかしい」 住居では禁じられてるんだって? 「危険過ぎるからでしょう」 うっかりサインして、いきなり追い出されたら路頭に迷っちゃうもんね。 「私たちのような個人店もそうです」 ※将来的には、住居での切り替えも検討されているらしい。 だけど、信頼関係のような気もするな。家主と借家人がちゃんと信頼関係築いていれば、どうにかなるもんじゃないの。 「うまくいってる時は契約のことなんて気にせずにすむんです。うまくいってない時ですよ。契約が物を言うのは(笑)」 そりゃそうだが。 「義理人情の世界では、契約はあくまでも予備的なものです。でも、今は何かとビジネスライクな世の中で。契約がビシバシ物言う」 世知辛い世の中だ。 「油断も隙もありゃしません」 まあ最後の決め手は、契約に法的根拠があるかどうかだ。その根拠自体が切り替えられるって、どういうこと? 「普通から定期への切り替えは、テナントにしてみれば何のメリットもない。よほどの交換条件でもない限り、不利なだけです。にも関わらず応じるとしたら、知らずにとか、うっかりとかじゃないでしょうか‥契約内容はぱっと見変わってなかったりしますから。家主に説明義務はありますが、いきなり法律の専門用語並べられても目が点になるだけです。今まで共存共栄でやってきた昔気質のテナント・オーナーは、家主の顔をたてて、よく調べもせずサインしてしまうかも」 ※ルミネエストに出店されていたソフトバンク代理店さんは、定期契約の意味をよくご存知でしたが、ルミネさんから契約の切り替えは形式的なものだという説明を受け、追い出しはないという約束の上でサインに応じられたそうで、追い出しは無効と主張されました。しかし、口約束だったため、文書が何より重視される法廷では通用しませんでした。 だとしたら、切り替えは家主にばかり都合いいじゃん。サイン一つで好き勝手に追い出せて、立ち退き料も払わずにすんで。 「テナントには蟻地獄です。一度サインしただけで、二度と元の場所に這い上がれない。生き残る道は再契約ですが、それも家主が首を縦にふらない限りアウトです」 家主の胸三寸。 「知人の追い出し専門の弁護士が私にこう耳打ちして高笑いしました。テナントのオーナーなんてチョロいもんだ、こいつ(切り替え)のお蔭でボロいもんだ」 生々しい証言。 「テナントの身にもなって下さいよと言ったら、神妙な顔してましたけど」 踏んだり蹴ったりだね。 「そうですね。借金抱えたまま立ち退き料ももらえず(むしろ高額の撤去費用を払わされて)追い出されたら、責任感の強い店主は、従業員や業者さんに申し訳なくて、家主を憎むより自分を責めるでしょう」 落とし穴‥。落ちる方が悪いのか?落とす方が悪いのか? 「相手の無知や義理人情につけこむんだとしたら、落とす方がタチ悪い気がします」 何はともあれ、契約変更のサインには慎重になった方がいいね。 「まず専門家に相談すべきですね。家主にはいくらでも待ってもらって。ただルミネさんは、何度お断りしても、また呼び出して、サインしろだの何だのおっしゃるのですが」 強要じゃん。 「強要はいけませんよね。サインしない?じゃー出て行けというのも、強要の一つです」 今のベルクは、そういう状況にあると。 「20年以上ここで問題なく営業を続けてきて、4年前に家主がルミネさんに変わりました。いきなり新しい契約書にいついつまでにサインしろと迫られました。ほとんどのお店はそれに応じました。うちを含む4軒はお断りしました。そうしたらすぐ、立ち退きを勧告されました」 なるほど。でも、サインしなければ営業権は生きているわけだから、出ていくことないじゃん。 「そうです」 サインに応じた店は皆、追い出された? 「はい。進行中の所もありますが、追い出しが合法化されるので、家主は強制的に追い出せちゃうんです」 追い出されたテナントの怨念は相当なものだろうけど、泣き寝入りするしかない? 「残念ながら、今の法律ではどうにもならないですね。ただ、告発という手はあります(笑)」 情報の公開というのは、ベルクの一貫した姿勢だよね。個々の問題にとどめるのじゃなく、同じ問題を抱える人のためにもサンプルとして提供していく。 「いつかどなたかのお役に立てればいいのですが」 少なくとも個人店にとって、ベルクのケースは色々な教訓が含まれてるんじゃ? 「サインに応じなかった店も、殆どが個人店です。皆、何とか営業を続けています。ルミネさんから執拗に呼び出しを受けていますが」 いまだに? 「ここしばらくは、ないですけど」 みんな、呼び出しに応じるの? 「話し合いを拒否するわけにもいかないですから」 強要でも?ああ!だからルミネはいつも呼び出しのとき用件を言わないのか。 「『とにかく来い』と(笑)。『ご用件は?』『会ってから』『立ち退きに関することでしたら、こちらの意思は変わりません』『状況が変わったから、とにかく来い』」 状況が変わった?どんなふうに? 「不況でルミネの経営状況が悪化している。よって、家賃を上げる。嫌なら出ていけ、とか」 何じゃそりゃ(笑)。不況は賃料値下げの理由にこそなれ、値上げの理由にはならない。 「普通契約ならそうでしょう。でも定期契約の場合、嫌なら出ていけの世界ですから、賃料も家主の言い値になりやすいんです」 定期だと家主はそこまで強いのか! 「強い家主がさらに強化しますから」 まあベルクは普通契約だし、動じる必要ないね。 「今まで通りよろしくお願いしますと頭を下げるしかありません。ただ、今度呼び出されたら、来ていただこうかと」 話があるなら、来い!と(笑)。 「店でお話しましょうと」 お客さんにも同席してもらって? 「いいですね」 いっそ訴えるというのは? 「法廷でケリをつけるということですか?」 そう。 「裁判官という第三者に頼る?」 第三者ったって、法的効力を持つ。 「お客様は、契約に関しては第三者ですが、店の存続に関しては当事者です。私たちはまずお客様の声をうかがおうという姿勢でやってまいりました」 それが一万6千人の署名(現在)につながったわけだ。でもルミネが考えを変えないんだから、そろそろ法廷にゆだねるべきでは? 「それも一つの考えですね。08年に一万人の署名を提出させていただいて、09年にルミネさんの方から立ち退き延期のお返事がありました。10年の10月1日にルミネ新社長から、また立ち退き勧告の文書が私のところに届けられました。それに対して、今、新しい署名活動を展開しています。それを3月中に提出する予定です。その後、ルミネさんがどう対応されるかですね」 まあ焦ることはない。気長にいこう。 「ありがとうございます。よろしくお願いします」 この問題は国会にも飛び火した。 http://zoome.jp/whiteproduction/diary/336/ ![]()
by bergshinjuku
| 2011-01-18 12:29
| +その他+
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