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『日計り』刊行10周年記念展 2014年7月1日~7月31日 新宿BEER & CAFE BERG

『日計り』刊行10周年記念展

201471日~731日 新宿BEER & CAFE BERG


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『日計り』と私
 

今香子(ベルク社員/『日計り』刊行10周年記念展プロデューサー)

大松幾子先生は、全国に沢山のお弟子さんがいる朗読の大先生だ。私は先生になぜか可愛がられた。娘と一緒に買い物をするのが夢なの、と息子さんを紹介されたこともある。後を継いでほしいとのことだった。先生は、私がベルクで働いているのをご存知だった。でも、一生の仕事とは思われなかったのだろう。ベルクが忙しくなるにつれ、私はだんだん朗読から疎遠になった。ある日、先生から連絡があり、お会いした。イヤリングをいただいた。先生は大病の後だった。もう一度、後継者にと説得された。嬉しかった。と同時に、ベルクがいかに大事か、どう説明すればわかっていただけるだろうともどかしくもあった。私の上司でもある、迫川尚子の写真集『日計り』が出た時、それを先生にお送りした。すぐお手紙をいただいた。この方はきっと優しくて厳しい方ね、アングルが的確で、その中に暖かなまなざしがあると先生の感想が書かれてあった。私がどういう環境にいるか、察していただけたのだ。文面からそれが伝わってきた。もしかしたら、私は優秀な弟子なのでなく、頼りなくてご自分で育てようと思われたのかも知れない。だから安心されたのかも知れない。数年後、先生はなくなられた。最後まで朗読の現場で活躍されたそうだ。『日計り』は、私にとっても特別な意味を持つ本なのだ。





作者から

迫川尚子(ベルク副店長/写真家)

『日計り』は、写真を撮りっぱなしのまま一向にまとめようとしない私を見かねた私の師匠、金瀬胖さんが編集して下さった私の最初の作品集です。ベルクの仕事を抜け出して撮った写真ばかりなので、どれも新宿駅周辺の町並み…主に90年代…が写っていますが、いざまとめようとすると写真達がそれに反逆し、金瀬さんは随分苦労されたようです。今年、刊行10周年ということで、うちの今が展示を企画してくれました!やった! (ベルク通信2014年7月号より)



見るべきところがどこか戸惑う


井野朋也(ベルク店長)


写真集『日計り』刊行10周年記念展、写真集をお持ちの方は展示と見比べる面白さもあります。写真集の現像は、焼きの名人金瀬胖さんですが、展示は殆どが迫川尚子本人によるものです。微妙なトーンの味わいはさすが名人。それに対し、迫川の焼きは黒い!ただ、それによって同じ写真でも浮かび上がるものが違う。

今秋にはコニカミノルタプラザで新作発表をひかえる迫川。正直、10年前の『日計り』のオリジナルプリントを今店に飾るという発想は、社員の今香子に言われるまでありませんでした(今が今回の展示のプロデューサーで、写真のセレクトと並べ方は全部彼女が決めた)が、こうして並べて見ると、なぜ自分の焼きで本にしなかったの?と思わざるを得ません。

『日計り』の写真は全部で101枚。一つにまとめられるのを拒絶するような写真ばかりです。名人に一気に焼き直してもらわなければ、本にならなかった。今でもそう思います。ただ、名人の焼きは、写真の隅々まで目が行き届いている。迫川の焼きは、見るべきところがどこか戸惑う。

そう、どちらが良い悪いではなく、同じ写真なのに全く別ものなのです。迫川バージョンでもう一度『日計り』を作りたいと思ったほどです。「日計り」(ヒバカリ)という言葉の響きも、光と影が強く妖しくゆらめく迫川バージョンの方が合う気がします。そのことに気づけただけでも今回飾れてよかったと思います。




プロデューサー今香子のメモより


ミニカウンターに置く写真はどれだろう?あのミニカウンターは、特設ステージのようなちょっと特別な場所。

鶏(54番)は絶対1卓側の入り口の真ん前だ!だって澄ました顔して「いらっしゃいませ~!」と言ってる。

前々からカッコいいと思ってるワンショットバー(22番)の写真はDM?いや、これは、大きな写真で観たい。水溜まりに建物が映っていて、それがまた良いのだ、DMでは、せっかくの水溜まりがよく見えない。

そんななか、すごいのと出会ってしまった! 鳥肌がたった!もう貴方しかいない!あの特設ステージは、まさに貴方の場所です!自転車のサドルは、タンポポの綿毛のように優しく、そして、光の輪が輝き、妖精のように楽しそうに飛んでいる。なんとも幻想的で奇跡的な1枚。(46番)

あれ?これハガキサイズでもカッコいくないかな?この光の差し具合、影の出来具合、外国の映画のワンシーンみたい。だけど、映画だったら、主役のダンディーな俳優だから、かっこよく見えて当たり前。この写真のすごいところは、恐らく普通のおじさんであろう方が、かっこよく映っているところ。そして、壁と道路が、いい意味で日本の都市っぽくない。壁の汚れ、道路の埃っぽさがいい味を出していると思う。 ありがとう!おじさん!  貴方はDMになるためにおじさんになったのかもしれないですね!(64番)

曲がり角の誘惑 魔がさす角? その先は何?

曲がり角の黒猫(94番)は「私についていらっしゃい」と私を誘惑する。さあ、どうする?わたし。もちろん、ついていこう。そして、黒猫さん、貴女の出番です。7卓のベルク店内の角で、誘惑してください。たくさんの方が、貴女の誘いに負け?この角を曲がるでしょう。そして、私達スタッフは、いつでも厨房からチャーミングな貴女を観ることができます。

さて、曲がった先には!ワンショットバー(22番)しかないでしょう。このワイルドでダークな存在感。それでいて、小さな水溜まりに繊細に映る建物。タイムスリップしたような異次元の世界。

さて、61番、なぜこの写真に惹かれたのか?黒猫が走り幅跳びしてるから?このまま写真から出てきてしまうかもしれない。そんな危険とうらはらに、自転車に乗ったおばさんの後ろ姿は、とても平和で、まるで1枚の絵のよう。この写真は何処だろう?

この猫の目(42番)を見てると、サルバトール・ダリの「記憶の固執」を思い出す。「柔らかい時計」のようにでろ~んと、蕩けちゃってるんだなぁー。この不思議な目は、ミニカウンター左奥の「特等席」(壁とカウンターに囲まれ、いつでもどこでも独りになりたい私にとっては安心出来る場所)を見守って欲しい。

「モチヅキ洋品店」老舗の風格、佇まいが素敵だ(36番)。板看板の中途半端さが、ビミョーに適当で良いのだけど、出窓下の岩壁を「モチヅキ」と削って書いた跡があり、なんだか必死さも伝わってくる。適当さと必死さのギャップが好きだ。その必死で削ったであろう「モチヅキ」の「モチ」が、クール女子小学生によって隠れてしまってるこの絶妙さ!愛しさが増すのです。お気づきだと思いますが、この曲がり角も、そうです。もれなく魔がさします。

じっと待っている小路。この張り詰めた空気は食虫植物のような危うさの24番の写真。ふっと足を踏み入れたら、あっという魔に、連れ去られてしまいそうです。気をつけて下さい! 

あ、、、、、、うっかり魔の小路に、吸い込まれてしまった私が出てきたところは、新宿駅旧南口の広場(82番)。 タイムスリップしちゃいましたね。オモチャのような小屋が集まり、何故か長い梯子があったりと、不思議な空間。カラッとした空気感と同時にじっとりとした人間の湿度を感じる。重味のある濃厚な1枚です。

写真の被写体としてのサラリーマンは、くたびれた感を強調されてるイメージが強くて切なくなるのですが。こんな幸せそうなイイ顔したサラリーマン二人を見てると、何だか嬉しくなってきます。企業戦士として闘い疲れた、哀愁漂う感じだけがサラリーマンじゃないよ、サラリーマンだって、普通の人間、楽しい瞬間もたくさんあるのさ、と言われてる気がして。。思わず、写真(86番)の二人に「ごめん!偏ったイメージだけで、一括りにしちゃって!」と謝りました。

その隣には老人の背中がとても印象的なビルの裏道。(8番)その背中に、いろいろな人生を歩んできたであろう、歴史の重みを感じます。老人の背負っているモノの大きさは、隣の女の子の身軽さと対比していて「生きる」ことを考えさせられるのです。

老人とサラリーマンの間に差し込んだ写真。(18番)スパイシーだ!と思った1枚です。壁の意味不明な落書きとか、隙間を埋め尽くす潰れた缶ジュースの山とか、刺激的でカッコいい!BGMを流すとしたらパンクですね。ちょうど階段の手すりと男性の背中の間に、小さく映る人の群れ、何だか不思議な感覚なんです。階段下が映っているので、人が小さく見えて当然なんですが、高い場所と低い場所が二次元の世界では隣り合わせに存在する、そこが写真の面白さなんだなぁと思いました。

ビデオboxの看板を掲げたおじいさん(59番)は一言「わしはここじゃ!ここ以外はいかん!」 は、はい!かしこまりました!


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龍のウロコ


今香子


私事で恐縮ですが、生きること自体に不器用な私は、何をやってもふり落とされそうでしがみつくのでやっとでした。どうせなら大好きなお店にしがみつこうとベルクで働き始めました。

よりによってベルクは暴れんぼうの竜です。何とかウロコにつかまって、手を離さないよう歯を喰いしばり、気がついたら20年もの月日が経っていました。

そもそもお酒がほとんど飲めなくて体質的に食べるものも色々制限のある私が、飲食店の社員をやっているのは不思議です。ベルクが飲食店じゃなければ良かったのにと思ったこともあります。

でもベルクはベルクなんです。それだけで何とか続けてこれました。

今ではベルクの重要な部門の一つであるコーヒーをまかされています。コーヒーなしでは生きられない体になりました。身も心もベルクと一体化。私自身がもう竜のウロコです!

さて、話は飛びますが、当店の副店長であり、写真家でもある迫川尚子の最初の作品集『日計り』が、今年で刊行10周年を迎えました。私も何度もめくり直した本です。ベルクに出会えてよかったと思えたのは、この写真集があったからかもしれません。

今月25日はベルクの24歳のお誕生日でもあります。

よし、じゃーお祝いにと店で『日計り』オリジナルプリント展を企画しました。毎日、現場を守るだけで必死な私ですが、ついにこんな素敵なアイデアが降ってきたのです。もうやるしかないと思って、強引に進めました。

『日計り』ブレンドもご用意します。コーヒー職人の久野が、『日計り』をイメージしてお作りするコーヒーです。写真とコーヒーのコラボ!聞いたことないですよね?どうしてしまったの私!凄いアイデア出まくりです~。

でもコーヒー職人の久野が『日計り』をイメージして作ったコーヒーを一口味見し、やっぱり凄いのは職人だと思いました。酸味と酸味をぶつけて甘味を出す、アフリカンタイプのブレンドです。飲み進めていくうちに軽やかでフルーティーな味わいの中に酸味と甘味の複雑な味わいさが楽しめます。

正に日計りの光と影のハーモニー!早くお出ししたい!今月末にお目見えする予定です。ぜひお楽しみに!

(ベルク通信20147月号より)



by bergshinjuku | 2014-07-24 11:12
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